アーカイブとして、調香ワークショップ×作曲家シリーズ 各回の開催レポートをお届けします。第2回は2023年7月29日に開催したRavel ラヴェルの音楽と調香ワークショップ。
管弦楽の魔術師とも呼ばれていたラヴェル。聴き手を誘惑するラヴェルのオーケストレーションの秘密は調香においてもヒントを与えてくれます。実際、調香師は自身を指揮者に例えることがあります(パフューマリー通信 Vol.8 参照)。
(オーケストレーションとは)結局、聞き手に錯覚を起こさせるのだ。聴き手を惑わせ、われわれにしか種明かしを知らないものと信じさせるようにしなくては。
たとえば、一本のクラリネットにある旋律線を割り当てるとしよう。だれもが似たりよったりになるだろうが、せいぜいこう考えることはできる。“そう、クラリネットがここにふさわしい”。
だが聴き手を誘惑したいと思うなら(誘惑するか、それとも欺くか?)、クラリネットの下に、別の楽器を配置する。これは聴き手にはわからないだろう。たとえばここにチェロのピチカートが重なっていることは、作曲者しか知らないというわけだ。これはよく聴こえない。メゾ・フォルテのクラリネットの下で、ピアニッシモのチェロが響くからね。
とはいえこれだけでも、クラリネットの音を微妙に変化させるには十分だ。クラリネットの背後で、オーラや奇妙な影のようなものが聴こえるからね。つまりこれこそオーケストレーションにほかならないわけで、“聴衆を惑わす”ことなんだよ。
『ラヴェル -その素顔と音楽論』マニュエル・ロザンタール著 マルセル・マルナ編 伊藤制子訳 (1998) 春秋社
発明家・技師であったスイス系の父と、バスク出身の愛情豊かな母を持ち、幸せな子供時代を送ったラヴェル。14歳でパリ音楽院に入学し、バロック、古典派、ロマン派のアカデミックな音楽教育を受ける一方で、万国博覧会で東洋の音階やロシア楽派に深く影響を受け、サティの個性的で非正統派の音楽に傾倒します。マラルメの詩を愛読し、ボードレールが描くダンディズムに魅了され、フランス文学を愛し、身だしなみや服装は優雅で洗練されていました。
ワークショップ前半・ピアニストの徳力清香さんによる音楽案内は、ラヴェルの幼少期から晩年の演奏旅行の逸話まで、音楽理論も混ぜ込みながら、演奏のように心地よく滑らか。ラヴェルの緻密さを象徴するもののひとつが直筆譜。この日清香さんが用意してくださったのは≪水の戯れ≫と≪ダフニスとクロエ≫の直筆譜コピー。作曲家によっては何度もの書き直しにより乱筆乱文ならぬ乱譜が散見されることも多い中、ここまで綺麗に美しく清書された直筆譜は珍しいそう。
≪亡き王女のためのパヴァーヌ≫のどこか懐かしく優しい音の運びには『ラヴェンダー』と『マンダリンオレンジ』(アロマセラピーでは子どものための精油としても知られています)、≪道化師の朝の歌≫のアンダルシアのリズムには『シスタス』を一緒にお聞きいただきました。その他、準備したアコードとシングルノートは『水』『森』『ジャスミン』『リツェアクベバ』『ブラックペッパー 10%』『トンカビーン 15%』の合わせて9種類。
アコードとは音楽用語では和音、香水業界では2種類以上の香料を混合したもの。今回はフレグランスの調香に入る前に簡単な調香の法則をご紹介し、アコードを取るワークも行いました。ラヴェルの作品のようにモチーフを展開しながら音を重ねるように、アコードから香りを連想していく。個性派揃いの香りばかりでしたが、受講された皆様の調香から新しいインスピレーションをいただく時間でした。
BLISSFUL POTION WORKSHOP
調香ワークショップ x 作曲家シリーズ
第2回 Ravel ラヴェル
日時:2023年7月29日(土) 14時00分-16時00分
会場:garten ガルテン(金沢市東兼六町1-26)
亡き王女のためのパヴァーヌ
水の戯れ
道化師の朝の歌(『鏡』より)
ダフニスとクロエより第2組曲『夜明け』
ボレロ
Keywords:
数学的感性
アルケミー
管弦楽の魔術師