アーカイブとして、調香ワークショップ×作曲家シリーズ 各回の開催レポートをお届けします。第3回は2023年9月3日に開催したMozart モーツァルトの音楽と調香ワークショップ。
ピアニストの徳力清香さんによる音楽案内はモーツァルトが生きた時代・18世紀後半の馬車事情から始まります。6歳の頃から家族と共にヨーロッパ各地へ音楽旅行に出掛け、神童と呼ばれていたモーツァルト。煌びやかな舞台や称賛とはよそに、実際の音楽旅行の数々は過酷な旅の連続でもありました。その頃の馬車の車輪は木製で、車輪がゴムで覆われるようになる以前の時代。舗装されていない道を馬車で通り過ぎる振動はそのまま幼い身体へと伝わり、また滞在する先々では感染症に罹り、時に1ヶ月間寝込み生死を彷徨うなど、天才モーツァルトが早逝した原因のひとつとして成長期における過酷な環境も挙げられています。
ウィーンに定住する25歳まで旅を続けたモーツァルト。35年間の短い生涯の間に遺した作品は600曲以上で、作品のジャンルはピアノ小曲から管弦楽曲、交響曲、宗教音楽、アリア、オペラまでと非常に多岐に渡ります。
旅先で触れた異文化や風景、思い出はモーツァルトの音楽の中で息づいています。≪ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付」≫は18世紀後半、オスマン軍の置き土産として当時ウィーンで流行していた「トルコ風」音楽をベースに作曲されたもの。オスマン軍による太鼓の軽快なリズムが率いるトルコ行進曲を「草原のアコード」などと一緒に聞いていただきました。
新しい楽器を取り入れるのも天才モーツァルトの才能のひとつ。特にクラリネットはモーツァルトが好んで積極的に取り入れた木管楽器ですが当時は新しい楽器でした。20世紀最高のクラリネット奏者として名を馳せたレオポルト・ウラッハ(1902-1956)による演奏≪クラリネット五重奏曲≫は黄昏時のあたたかで少し憂いを帯びた音色をまろやかなトンカビーンを含む「夕陽のアコード」と重ねました。
名声とは裏腹に生活は常に苦しかったモーツァルトでしたが、シンプルな音の美しさを探求し続け、ミューズの女神たちを歓ばせました。モーツァルトの作品には余計な装飾が施されず、作品の殆どが長調で書かれているものの、明るさの中に一瞬の翳りがあるー。モーツァルトに引き込まれる理由はそこにあるのかもしれません。
死者のためのミサ曲≪レクイエム≫はモーツァルト自身が死の床に臥せ、最後は口頭で作曲が続けられた遺作。古来より神への捧げものとして焚かれた「フランキンセンス」、重ためでパチョウリやオークモスの苦みを持つ「夜のアコード」を聞きながら、絶筆となった「涙の日」の8小節を迎えました。
BLISSFUL POTION WORKSHOP
調香ワークショップ×作曲家シリーズ
第3回モーツァルト
Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
日時:2023年9月3日(日) 10時30分-12時30分
会場:gartenガルテン(金沢市東兼六町1-26)
≪ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付」≫
≪ピアノ協奏曲第23番≫
≪きらきら星変奏曲≫
≪クラリネット五重奏曲≫
≪レクイエム≫
Keywords:
音遊び
ミューズの女神たち
宮廷音楽家