アーカイブとして、調香ワークショップ×作曲家シリーズ 各回の開催レポートをお届けします。第1回は2023年6月4日に開催したDebussy ドビュッシーの音楽と調香ワークショップ(パフューマリー通信Vol.14 参照)。
ドビュッシーの作品を香りで辿るにはどこから始めよう?その手掛かりを得るために出会ったのがドビュッシーの書簡集でした。読み進めていくうちにいくつもの印象的な言葉や段落があり、ワークショップ開催日とちょうど138年前の同じ日に書かれた手紙は特にドビュッシーが目指した音楽を体現するものでした。
私は自分の自由を愛しすぎるほど愛していますし、その自由は私のものです.(1885年6月4日アンリ・ヴァニエに宛てた手紙)
『ドビュッシー書簡集 1884-1918』フランソワ・ルシュール編, 笠羽映子訳 (1999) 音楽之友社
22歳でローマ大賞という作曲家としての古典的な肩書を手にしたドビュッシーは、当時ヴィラ・メディチの寄宿生としてローマに留学中でした。パリを懐かしみ、ローマの歴史的伝統に違和感を感じながら綴られる、ドビュッシーの迸る音楽への思い。ローマの学士院からは「漠然とした印象主義に注意すべきだ」と評されながらも、自分自身が追い求める音楽と美学への飽くなき探求をやめることはありませんでした。
私の望むのは、魂の抒情的な動きや、夢想の気まぐれにぴったり合うほど、充分しなやかで充分ぎくしゃくした音楽です(1885年10月19日アンリ・ヴァニエに宛てた手紙)』
同上
ワークショップ前半は案内人を務める徳力清香さんのお話から。清香さんのお話は各作品や作曲家のエピソードだけではなく、音楽の歴史の転換や時代と社会の流れを感じさせる壮大さがあり、まるで音楽で時空の旅をしているようでした。19世紀末、本当の自由を求め、新しい音楽の時代を切り拓いていったドビュッシー。清香さんが厳選した各作品の音源はドビュッシー自身による演奏や初演を演じたピアニストによる演奏を中心としたもので、楽譜には書かれていない作曲家の意図が反映されていて、音の真意に近づくことができたような気がしました。
ドビュッシーの調香ワークショップで準備した香りは定番のアコード『SHINING 光』『BREEZE 風』『NIGHT 夜』『WATER 水』『SUNSET 夕陽』に加えて、『LUNE 月』と『La double croche 16分音符』のアコードと『ナツメグ 10%』『カルダモン 10%』のシングルノート。
各作品を聴きながら、その曲に合わせたアコードやシングルノートを聞いていただきました。
ヴェルレーヌの詩「月の光(Clair de Lune)」で描かれる蒼白い月にはペパーミントとプチグレンを効かせた『LUNE 月』のアコードを≪月の光(ベルガマスク組曲)≫と共に、≪塔(版画)≫に象徴されるようなドビュッシーの異国への憧れを『ナツメグ』と『カルダモン』のシングルノートに託す、といったように。
感じたままの印象を言葉やスケッチに残し、それぞれのドビュッシーの音楽を調香していただきました。音楽と香りの新しい旅路への出発。ご一緒いただきました皆様、ありがとうございました。
BLISSFUL POTION WORKSHOP
調香ワークショップ×作曲家シリーズ
第1回ドビュッシー
日時:2023年6月4日 10時30分~12時30分
会場:garten ガルテン(金沢市東兼六町1-26)
月の光(ベルガマスク組曲)
美しき夕暮れ
塔(版画)
水の反映(映像)
ゴリウォーグのケークウォーク(子供の領分)
Keywords:
自由な和声
あいまいな輪郭
瞬間的印象
コーヒーは珠洲の二三味コーヒ―、嗅覚休めのチョコレートは片町のchocolate factory FILFIL さんより。皆様からいただいた受講料の一部はささやかながら2023年5月5日に発生した奥能登地震における災害ボランティアセンター窓口 社会福祉法人珠洲市社会福祉協議会 さんに寄付させていただきました。