パフューマリー通信 Vol.1

今もなお武家屋敷跡の雰囲気を残す金沢・長町。長町という地名は加賀藩八家老のひとり「長家」の屋敷跡に由来します。大正6年に登記された築百余年の町家を改修して、2021年、自然香水をつくる小さなパフューマリー(香水製造所)を開きました。

『なぜ自然香水?』

初めて天然香料に出会ったときの衝撃は今でも忘れられません。

香りに細胞が触れた瞬間、脳内に、体中に、胸一杯に、生きる喜びが駆け回り、溢れ出しました。以来、のめり込むように天然香料の調香の勉強を始めました。

自然と繋がることで、こんなにも幸せになれるなんて。もっと気軽に、多くの方に、知ってもらいたい。体感してもらいたい。そして香りによって、ひとりひとりが本当の自分を表現し、本当の幸せにたどりつけたら、世の中が調和にあふれ、真の平和へと繋がっていけたら。bliss(英訳:至福)への道のりの小さなひとしずくになりたい。大きくて小さな想いを胸に、2015年6月にBLISSとして仕事を始めました。

『なぜパフューマリー?』

香水は化粧品。化粧品を製造・製造販売(販売のみならず、賃貸・授与も含む)する場合は薬機法に基づく許可(化粧品製造業・化粧品製造業許可)が必要になります。

起業した当初、オーダーメイドの香りを製作させていただいても、「アロマ」「雑貨」「自己責任」という薬機法のグレーゾーンの中で仕事をしているのが、ご依頼してくださったお客様に対して、自分自身に対して、素晴らしい豊かさと魅力を持った天然香料に対して、後ろめたさがありました。

当時「香水OEM」業界の最低ロット数量は1千個。数の大きさに驚きつつも、何よりも自分自身の手を動かし、妥協しないものづくりをしたい。正々堂々と、香水として天然香料の魅力を届けるため、パフューマリーを立ち上げようと決めました。

『パフューマリーへの道のり 人的要件編』

化粧品製造業・製造販売業の申請において、数々の法的要件の中でも「責任技術者」「統括製造販売責任者」の設置がボトルネックと言われています。1)薬剤師、2)大学・専門学校・高専で薬学又は化学の専門課程を修了した者、3)化粧品の製造現場で3年以上従事した者。1~3いづれかに該当する者を設置しなくてはならず、実際には外部の人間に依頼し、申請を行うケースもあります。

けれども私は既に遠回りしている分、香水や製造現場において学問として基礎を勉強し直したいと思い、2016年4月夜間の理学部がある東京理化学大学に編入、途中出産もあり休学しましたが、2019年9月に正式に卒業しました。十数年振りの物理や数学に苦戦もしましたが、調香への理解が更に深まりました。

『パフューマリーへの道のり 物的要件編』

皆さまの化粧品工場のイメージはどのようなものでしょうか?

郊外にあって、大きくて、四角くて、クリーンルーム(無菌室)があって、窓は無くて…。

BLISSのパフューマリーは金沢の中心部にある築百余年の町家に潜み、製造所の広さは8畳強。角地の立地なので二方面ガラス張りに外格子、壁と天井は白漆喰、カウンターは白木、床は土間コンクリートです。環境や景観に配慮し、何よりも作業者(=私)が楽しく気持ちよく製品つくりに没頭できるパフューマリーにしたいと思いました。ガラス張りにした理由には自然採光の他、外部からとの繋がりを感じることで、常に責任と信頼性を意識して働くことを念頭に置いて。隣接するアトリエは手洗い・更衣の場を兼ねており、小さな洗面台と楕円形のアンティークの鏡が設置してあります。

前例の無いパフューマリーですが、薬機法で定められた化粧品製造所の構造設備基準を確認しながら、設計当初より何度も県の担当局に通いました。現地審査も経て、許可証を手にしたときは、本当に感慨深いものがありました。けれどもこれがスタートライン。自然香水をこれから製品としてお届けできるよう、許可証を見るたびに身が引き締まる気持ちになります。

小さなパフューマリーであるからこそできる飽くなき原料へのこだわり。次回パフューマリー通信ではBLISSで扱う原料やその想いについて語ります。

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