今回のパフューマリー通信は香水の大切な原料である『アルコール』について。『アルコールとは?』から始まり、『アルコールにまつわる法律』、『BLISSが使うアルコール』などマニアックな話ばかりですが、お付き合いくださると嬉しいです。
『アルコールとは』
アルコールとはエタノール(C2H5OH)の総称です。中性で、水溶性・油性物質も溶解し、揮発性があるため、アルコールの蒸留技術が確立した14世紀以降、香料を希釈・抽出する基材として現代においても無くてはならない重要な原料です。実際、BLISSで製作する香水(パルファン)の賦香率は30%。即ち、香水原料の70%はアルコールなのです。
アルコールは発酵アルコールと合成アルコールに分類されます。前者はサトウキビなどの糖質原料やトウモロコシなどのでんぷん質原料を発酵させてつくるアルコール、後者はエチレンなどを原料として化学合成によってつくるアルコールです。発酵アルコールは主に飲用(お酒)や食品用(食品防腐剤・香料など)、合成アルコールは主に洗剤や医薬品など化学用に使用されています。なお、化粧品成分表示ではアルコールとしか表記されず、アルコールの由来原料は表示されることがありません。
『工業用アルコール(アルコール事業法)』
ここで法律のお話を少し。アルコールには2つの規制法があります。酒税法(免許制)とアルコール事業法(許可制)で、飲用(お酒)ではないアルコールは工業用アルコールとしてアルコール事業法で規制されています。
アルコール事業法の背景として、お酒の原料への不正使用を防止する目的があります。香水(パルファン)に用いるアルコール濃度は95度(!)高濃度であるもののアルコールはアルコール。希釈すれば飲用できてしまうため(←勿論、不正行為です)、90度以上のアルコールに対して厳格な流通管理をしているのがアルコール事業法です。アルコール事業法では90度以上のアルコールの製造、輸入、販売、使用は許可制とし、帳簿管理や国への定期報告が定められ、違反した場合には行政処分や罰則が科せられます。一方、高濃度エタノールの使用量が少量であるなど流通管理になじまない場合には、酒税相当額を加算した特定アルコールの販売制度があります(ドラッグストアなどで見かける無水エタノールなどはその代表例)。
諸外国では工業用アルコールの不正流通防止のため、苦みのある物質などの変性剤を添加する政府所定の処方があります。代表的な変性剤である安息香酸デナトニウムは最も苦みの強い物質としてギネスブックに登録されているそう。気になった方は海外製香水の表示成分をご覧になってみてください。
『BLISSが使うアルコール』
BLISSが使用するアルコールはファーメンステーション社の岩手県奥州市で有機栽培されたお米由来のエタノールです。香水原料としてだけではなく、衛生安全のため香水瓶や製造前に使用する機器の洗浄にもお米エタノールを使っています。
代表の酒井里奈さんに初めてお会いしたのは、東京理科大学在学中のとき。酒井さんは金融機関などで様々なプロジェクトに携わるうちに発酵技術に魅せられて、32歳で東京農業大学に入り直し発酵技術を学び、お米からエタノールを製造・販売するファーメンステーション社の事業を展開されてきました。お米のエタノールは奥州の休耕田でオーガニックのお米を栽培し、発酵・蒸留して製造したもの。残った発酵粕は化粧品の原料や鶏・牛の餌に活用し、さらにその鶏糞や牛糞は畑や田んぼの肥料にするなど、ごみを出さない循環型コミュニティーを地域の方と一緒に作られています。独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる『循環型社会』を掲げ、近年ではりんごの搾りかすなどの様々な産業分野の廃棄物を利用して、新しい製品を生み出していらっしゃいます。
私も33歳のときに東京理科大学に編入し、常に酒井さんの勇敢な姿に憧れ、いつか香水をつくるときは必ず酒井さんのエタノールを使わせていただきたいと夢見ていました。日本で流通する工業用(発酵)アルコールは殆どがブラジル産サトウキビ由来や米国産トウモロコシの粗留アルコールを国内で精製(再蒸留)したもので低コストです。ファーメンステーションのエタノールは決して安価ではありませんが、製品は素晴らしく、95度エタノールはほんのりとお米のまろやかな甘さが香ります。香水をしっかりと支えてくれるエタノール。香りはそもそも目に見えないものですが、さらに目立たない基材であるエタノールも大切な原料なのです。
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春分が明けた新月の朝。春の中間点である春分は農作業を本格的に始める時期でもあるそう。市内山間部でお借りしている畑の雪は例年よりも早く解けて、今週末は耕運機を入れる予定です。土を耕し、種を蒔く時節。BLISSでは新年度から調香ワークショップの新シリーズを計画しており、次の満月にご案内する予定です。
今回もパフューマリー通信にお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
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