パフューマリー通信 Vol.9

今回のテーマは「調香」について。

パフューマリー通信 Vol.3 では調香で大切にしていることをお伝えしましたが、今回は調香における個々の香料の役割とその魅力、調香の進め方についてお話いたします。

『個々の香料が持つ役割』

個々の天然香料はそれだけでも十分素晴らしいのですが、複数の香料を混合し調香することによって、お互いの魅力をより引き出し、補い合うことができます。個々の香料は香りの特徴や揮発速度などによって、以下に分類できます。

  • トップノート(香りの第一印象)
  • ミドルノート(香りのボディ)
  • ベースノート(香りのルート)
  • モディファイヤー(隙間を埋める香り)
  • イーコライザー(香りの角を取る香り)
  • エンヘンサー(仕上げの香り)

これらの分類は相対的で大まかなものであり、実際は重複していたり、処方を構成する香料の組み合わせや各香料の比率によっても変動します。以下に各役割を説明いたします。

『トップノート Top note(香りの第一印象)』

一番最初に香ってくる香りです。柑橘系など揮発速度が速いものやスパイス系やミント類や一部のハーブ類など香りの強度が強いものが挙げられます。

 e.g. ベルガモット、ライム、レモン、オレンジ、マンダリン、プチグレンなどの柑橘類、シナモン、クローブ、レモングラス、ペパーミント etc.

『ミドルノート Middle note(香りのボディ)』

香りのハート(心臓部)とも言い、温かく、豊かで充足感があります。フローラルノートや柔らかな香りを持つハーブ類が該当し、香り全体を融合します。

e.g. ローズ、ネロリ、ジャスミン、ゼラニウム、ラヴェンダー、クラリセージ、カモミール、マジョラム etc.

『ベースノート Base note(香りのルート)』

全体の香りを持ち上げ、安定させる役割を担います。深みを与え、すぐに揮発してしまうトップノートを留めて香り引き伸ばします。ウッディノートや樹脂類など揮発速度が遅いものが該当します。ベースノートには個性的な香りが多く、単体だと苦手に感じる方もいらっしゃいますが、調香することで全体にコクや奥深さを与え、私自身、一番好きな香りの分野です。

e.g. シダーウッド、パチョウリ、フランキンセンス、ミルラ、ヴェチバー、シスタス、オークモス、サンダルウッド、トンカビーン etc.


『モディファイヤー Modifier(隙間を埋める香り)』

香り全体に躍動感を与えるノートで、ほんの少量加えます。鋭く、ぴりっと刺激ある香りが挙げられます。風が立つように、香りにダイナミクスが現れます。

e.g. クローブ、ナツメグ、ブラックペッパー、シナモン、ブルーカモミール 、バジル、ペパーミント etc.

『イーコライザー Equalizer(香りの角を取る香り)』

つんとする香りやきつい香りの角を取る香りで、全体を調和させます。「香りがまとまらない」「方向性が無い」と感じたときに足します。本当に頼れる存在です!

e.g. クラリセージ、プチグレン、ゼラニウム、ナツメグ、タンジェリン、マジョラム etc.

『エンヘンサー Enhancer(仕上げの香り)』

単体そのもので素晴らしい香りで、処方に特徴や個性を与えます。

e.g. ベルガモット、レモン、ジャスミン、ローズ、ユーカリ、スプルース etc.

『BLISSの調香の進め方』

BLISSでは処方のテーマやシンボルとなる香りを定めて、調香に取り掛かります。ムイエット(試香紙;スティック状の細長い厚紙で先端に香りを付けます)は処方の構成を決める際に調香時の必需品ですが、一度にムイエットで異なる香りを認識できるのは(私の場合)5本が限界。従って、5種類以上の香料を使う場合は、まずはアコードとして調香したり、トップ/ミドル/ベースノートとして別々に調香した上で香りを組んでいきます。

調香はベースノートから始めます。以前は第一印象であるトップノートから調香を始めていましたが、下から上へと層のように香りを組んでいくほうが失敗が少ないことが分かって以来、ボトムアップ形式です。ベース→ミドル→トップと調香していき、香りに動きを与えたいときはモディファイヤーを、香りがまとまらないときはイーコライザーを加えて仕上げます。

そして、欠かせないのが香りの熟成期間。調合を終えたばかりの香りはフレッシュですが、トップノートやウッディ系の酸味が残りがち。翌日~数日後に再確認して、必要があれば再調香します。また、フローラルノートやベースノートは熟成による変容が豊かで、熟成期間が長い程、芳醇さが増していきます。熟成とは香りの分子同士による結合(エステル重合)。理論的に熟成は温度や分子同士の衝突の頻度が高いほど反応が進行します。気温が高い季節の方が熟成が早く進み、撹拌も熟成を促進させる要因です。いい香りになりますようにと願いながら、熟成を見守っています。

熟成によって予期せぬ想像以上の香りに出会うことは多々あり、そのたびに調香の不思議さや奥深さに魅せられています。調香師としてまだまだ未熟であり、これからも香りの探求は続きます。

今回もパフューマリー通信にお付き合いくださり、ありがとうございました。

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次回Vol.10はパフューマリー通信の区切りとして、「友人との約束とBLISSの夢」をお届け予定です。

昨日の冬至を起点に新しい光の季節が始まりました。

今日は今年最後の新月。金沢は未明から吹雪です。

暗闇を照らすように、香りが光と共にありますように。