11月の新月の朝。冷たい雨と落葉はいつの間にか街のにおいを冬へと変えていました。
この1か月、香りのことよりも、パレスチナのことばかり考えていました。
『1st Collectionのサブテーマ』
BLISS の香水シリーズ 1st Collection は勇敢な女性 がテーマですが、第1作 パルファン 1001 Nights はアラビア・イスラム文化、第2作 パルファン Amor Mundi はユダヤ人に出自を持つ女性と、中東をサブテーマに据えています。
何故、中東なのか?それは、5年間滞在した英国から帰国後以来、日本で一番違和感を感じたのが日々の報道で接する世界との繋がりの希薄さでした。BBCの報道にすっかり慣れ切っていたため、特に中東に関する報道の少なさには驚きました。中東問題が大きく報道されるとすれば、大規模なテロ事件などが発生したとき。でも、それも数日経てば新聞の片隅に追いやられてしまう。今ガザで起こっていることも。
中東についてもっと知りたいと思いつつも、難解な専門書を前に何度も挫折しましたが、数年前図書館でたまたま手にした、チェコ人の女性による美しい挿絵が施された絵本『シンドバッドの冒険』に心奪われました。そのとき初めて出会ったのがシェヘラザードでした。
香料の歴史を辿っていくと、かつて中東が世界の貿易路の中心であったように、世界中の香料が集まる地であり香水の発祥地でした(パフューマリー通信 Vol.5, Vol.6, Vol.7 参照)。ローマ帝国崩壊後、多くのギリシアの書物は戦火を逃れて中東へ運びこまれ、ギリシア文明を礎に文化・技術が発展していきました。かつて世界の中心地でもあった中東に最初の香水を捧げたい。そんな想いで第1作目 パルファン1001 Nightsを発表しました。
第2作目パルファン Amor Mundi の調香を終えた後もアーレントの著作を読み進めているうちに、アーレントは1940年代前半の早い段階から、パレスチナにおけるユダヤ人国家の建国に反対し、多数派ー少数派民族の問題が潜在することを問題視して、ユダヤ・ナショナリズムに対して警鐘を鳴らし続けていたことを知りました。私なりにアラブ-ユダヤ人問題について理解を深めているところです。
世界への入り口は香水であってもいい。
パルファン 1001 Nights と Amor Mundi のふたつの異なる香水はジャスミンで繋がっています。優しさと愛と、ふたつの世界が繋がることを祈って。
『Connecting the dots』
20代の頃 スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチに感銘を受けて、いつも好奇心に任せて興味の赴くままに取り組んでいます。そのひとつが調香ワークショップ×作曲家シリーズ。アーレントの少女時代からの親しい女友達アンナ・メンデルスゾーンは作曲家フレデリック・メンデルスゾーンの孫であることを知ったときは、大袈裟ながらも、点と点が繋がる瞬間を肌で感じました。
哲学とは、知ることを愛すること。点と点が繋がることに歓びがあります。