My Starting Point – わたしの原点

人生においていくつかの忘れられない、他者からすればささやかかもしれない、衝撃的な体験がある。7歳のときはじめて行った映画館で「魔女の宅急便」を観たこと、10歳のとき神さまからのメッセージを聞いたこと、14歳のときシャンプーは水を汚すということを本で読んだこと、17歳のとき海外の大学には環境学という学問があるということを知ったこと、24歳のときはじめて天然香料に出会ったこと、26歳のときMOTHERHOUSE創業者山口絵理子さんの著書『裸でも生きる』を読んだことーー。

それは三井物産に転職したばかりの頃、優秀で快活な同僚たちに囲まれて、どうしたら自分の役割や存在意義を見出せるか焦燥感ばかり募らせていた日々だった。定期的に相談に乗ってくれていた先輩Nさんに「この本を読んだらいいよ」と、葦にもすがるような想いで手に取ったのがMOTHERHOUSE創業者山口絵理子さんの著書 『裸でも生きる』だった。衝撃的な読了後、「いつか自然香水のブランドを立ち上げる」と興奮気味でNさんに(覚悟を)伝えたら「絵にかいた餅だ」と一蹴されてもの凄く落ち込んだ。でもそのときNさんがそう言ってくれたことをわたしはずっと感謝している。「いつかNさんに胸を張って報告しよう」。悔しさという単純な動機のエンジンは当時のわたしとっていちばん必要な部品だったのだから。

それからのわたしはいつも山口さんを自分の人生の指針としてきた。山口さんの本やブログはいつも率直な言葉で綴られていて、勝手に共感するばかり。でも、わたしとの大きな違いは圧倒的な行動力で、それ故にNさんがわたしの構想を「絵にかいた餅」と評したのも自分でもよく分かっていた。

わたしがようやくその一歩を踏み出せたのは、世界的な流れと個人的な事情が相まって三井物産を退職した3年後、金沢で個人事業として調香の仕事をスタートした11年前だった。起業してから、法規制により現状では香水がつくれないと分かり、要件を満たすために東京理科大学に入り直した。卒業後金沢に戻り、製造所の許認可を取り終え、はじめての香水「パルファン 1001 Nights」を制作し、世に出したが4年前。そして、その香水が幸運にも山口さんの手に渡ることになり、巡り合わせで先日金沢のアトリエへ来てくださることになった。

山口さんのブログ、ここ数年はInstagramをずっとフォローしていたけれど、香水がお好きであることはまったく知らなかった。「いろんな香水を試してきたけれど、こんな香水ははじめて」と絶賛してくださり、夢のようで嬉しさだった。調香はほぼ独学で、天然香料のみで香水をつくるなんて香水業界から見れば辺縁で変わり者でしかないだろう。それでも人工香料をつかわず、自然香水で正々堂々と勝負したい、原料は最上のもの使うと決めて香水制作と向き合ってきた。原料の品質だけは自信を持っていたので、香水の本質-原料の良さ-を一瞬で見抜かれたことに、ああやっぱりこの方は自分の目と足でたくさんの素材を見てきたのだと感動した。

せっかくお会いできたのに、何を話したらいいのか分からなくてもじもじしていたら、山口さんがたくさんいろんなことを質問してくださり、わたしのことばかり話してしまった・・・。何度も調香を繰り返すなかでたった1滴で香水が劇的に変わる瞬間に幾度となく立ち会った経験やいかに本物の原料に出会うことが貴重で大変か、天然香料だからこそ得られるムラや雑味のよるあじわい、制作から販売まで一貫して関わることで妥協のないものづくりをできることの大切さ、山口さんは何度も頷きながらわたしの話を聞いてくださっていたけれど、それらのことはすべて随分前から山口さんから学んでいて、わたしはただそれを実践していただけなのかもしれない。山口さんの質問攻め(笑)にすっかり忘れていた夢の存在も思い出して、たくさんの勇気をいただいた。

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実は今回山口さんにお会いする少し前、10年以上愛用していたレザーバッグのショルダー部分が破れて、新たな相棒としてMOTHERHOUSEのショルダーバッグをお迎えした(正直にいうと、夫が少し早い誕生日プレゼントとして贈ってくれた)。シンプルであること、それは即ち、ごまかしが利かない。シンプルであるということは実は最大の贅沢であることを、わたしは香水制作から学んできた。良い素材、それもたっぷりと使うこと。使い心地、耐久性、不易流行のデザイン、それらを支える確かな技術と検品体制。そして、更にわたしが感動したのは、MOTHERHOUSEのプロダクツからは作り手の存在や物語、全ての工程に関わる人々の息づかいやぬくもりが例えそれがオンラインストアであっても伝わってくる(金沢はもとより北陸にはMOTHERHOUSEのお店がないのだ・・・)。作り手も使い手も幸せの循環の一翼を担っている。そんなことを毎日MOTHERHOUSEのバッグと過ごすようになって感じている。

マザーハウス|MOTHERHOUSE
MOTHERHOUSE(マザーハウス)公式ウェブサイト。途上国の豊かな自然に育まれた素材と受け継がれてきた職人の手仕事から生まれるバッグ、レザーグッズ、ジュエリー、アパレルの最新コレクション。

茂谷あすか
Profile
1982年生まれ。2006年英University of East Anglia卒業。株式会社QUICK、三井物産株式会社勤務を経て、2015年より調香の仕事を始める。2019年東京理科大学卒業。2021年石川県金沢市にてパフューマリーを設立。自然香水の製作を行う。