パフューマリー通信 Vol.11

今回のパフューマリー通信のテーマは、改めて『香水』について。『香水の定義』や『香水の製造法』といった香水の基本に加えて香水業界のことなどBLISSが見聞きしてきたことをお伝えいたします。

『香水の定義』

香水(パルファム)、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロンは一般的に賦香率(香料の含有%、香りの濃縮度)により区別されますが、それぞれに異なる用途や意味合いがあります。
 

香水(パルファム)は香りの濃度が最も強く、賦香率は15~35%。多くの香り製品の頂点に立ち、香りの宝石といわれるほど、昔から貴重品扱いされてきました。 オー・ド・パルファム(賦香率10~20%)はパルファムよりも濃度は低いものの、豊かな香りが特徴的です。オー・ド・トワレ(5~20%)はリフレッシュメントに、オー・デ・コロン(2~4%)(コロン=仏語『ケルン』;ナポレオン1世がドイツ遠征時にケルンから持ち帰った香り付き『水』)は身体衛生的な用途として用いられています。

『香水の製造法』

香水(パルファム)は香料をエタノールに溶かしたものであり、オー・ド・パルファム、オー・ド・トワレ、オー・デ・コロンの接頭語『オー』は仏語EAU=『水』のことで、エタノールの他、水が含まれていることを意味します。調合した香料とアルコール、パルファム以外は水を一定の割合で混合して、これら香水類を製造します。ステンレスタンクやガラス瓶などの安定な材質でできた密閉容器に入れて、冷暗所で一定期間熟成させます。

熟成中には、有機化学の教科書に出てくるような様々な化学反応(エステル生成、エステル交換、アセタール生成、アセタール交換、自動酸化、重合など)が複雑に絡み合って進行し、ツンとしたアルコール刺激臭がなくなり、まろやかで丸みのある芳醇な香りになっていきます。このような化学反応は撹拌や加熱によって促進されますが、BLISSでは熱を加えることはせず、全て手作業で香水を製造しています。

一定期間の熟成後、濾過をして、充填します。その後、ロット毎の品質管理試験を経て、出荷基準を満たしたものだけを出荷、製造販売します。

香水四方山話

ここからは余談。

シャネルやディオール、エルメスなどには専属調香師が在籍して、メゾン自身で調香から香水を作り上げますが、多くの香水製品は香料会社が手掛けた調合香料を元に作られています。実際、香水とフレーバーの国際市場の約半分以上を5社の香料会社が占めていると言われています。こうした大手香料会社の他に、多くのグラースの香料会社も調香を手掛けています。グラース(パフューマリー通信Vol.7参照)の会社の特徴はもともと天然香料の製造者であり、グラースは香水産業の職業的ノウハウが蓄積された、今でも香水業界にとって唯一無二の街。今では殆ど市場には流通しないグラース産ローズセンティフォリアやジャスミンは、シャネルやディオールなどのメゾンが栽培者と直接、長期の契約を交わしています。また、多くの調香師を輩出し、エルメスの専属調香師だったジャン=クロード・エレナもグラース出身です。

私自身、BLISSを始めた2015年に初めてグラースを訪れたときに、今でも重要な天然香料の産地でもあることを肌で感じ、以来憧れの場所でした。パフューマリーの設立要件を満たすために大学に入り直し、大学卒業後はグラースの調香学校への留学を考えていた時期もありました。けれども、2018年夏に留学計画を進めるためにグラースを再訪したとき、街の至る所で合成香料の香りが鼻に付きまとい、ここには今の私が学ぶべきものはないと悟り、金沢でパフューマリーを立ち上げることに決めました。それでも、グラースは今でも憧れの場所です。

今回もパフューマリー通信にお付き合いくださり、ありがとうございました。

ご意見・ご感想など、是非お寄せいただけたら嬉しいです。

立春、雨水と季節は進み、気持ちは春へ。

春の楽しみを数えながら、温かくお過ごしください。

雪の花。春の雪は少し重ため。