牡羊座の新月のパフューマリー通信。牡羊座は始まりのサイン。直感的で本能的な判断力が働くとされている上に、今日は金環皆既日食とのこと(日本の一部では部分日食が見られるよう)。『思い切ってやってみよう』という宇宙からのメッセージ。
余談ですが、私が皆既月食を見たのは高校2年生の夏、短期留学先の英国オックスフォード州にて(1999年8月)。当時はsolar eclipseという言葉の意味が全く分からず、日食グラスを渡されて外に出ると昼間で太陽が出ているのに暗くなっていく様子に感激して、ずっと見入っていました。
次の皆既日食は2030年6月1日。北海道の大部分では金環日食が見られ、日本全土で部分日食が見られるそうです。
『音と香りの関係性』
さて、今日のパフューマリー通信は先日の満月にご案内した『調香ワークショップx作曲家シリーズ』について。音楽と香りの関係について紐解いていくと、成り立ちは音と香りがもたらす喜びそのものから神への捧げものとして、そして中世の錬金術を経て、大きく発展していきました。君主制が続く時代、一部の特権階級で嗜まれていた音楽と香りは、その後市民の生活にも広く浸透するようになります。作曲家シリーズでは音楽と香りの歴史的な類似性にも言及していく予定です。
歴史上の共通点に加えて、調香と作曲が似ていると私が今一番強く感じた点は『クラシック音楽は再現の芸術』であることでした。作曲家が表現したかったことを楽譜から読み取り、深く掘り下げ忠実に再現するのが演奏家の仕事であるとするならば、心を揺さぶられる音楽にはただ美しいだけではない、聞き手は作曲家が音に託した思いや情景に知らず知らずのうちに惹き込まれていたのだと。調香とは言葉やイメージを香りに翻訳し、その瞬間へと一致させる作業だと思っていた私にとって、作曲はそれらを音に置き換えたものだと考えた瞬間、調香と作曲が同じに見えてきたのです。
『音と香りが共鳴する場所を探る』
楽譜を読み解くということは、一音ずつに分解していくことです。そして再び音を組み立てていき、和声進行や旋律を追っていく。調香もひとつひとつの香りを聞き、共鳴する場所(比率)を探し当てるようにそれぞれの香りを組んでいく。以前は音楽作品を香りで表現することを試みましたが、一音一音に耳を澄ませるように音と香りを聞く、調香の過程にこそ作曲家の真意が感じられるのではないか ー そんな仮定を元に、今回の作曲家シリーズの調香ワークショップを企画しています。
とは言え、作曲家の真意というものの、『こう感じたほうがいい』というものはありません。好き嫌いはもちろんのこと、感じ方は人それぞれ。香道のお稽古でも同じ香りを聞いて和歌や感想を述べることがありますが、本当に十人十色の解があるので驚きます。正解を求めるのではなく、私達が潜在的に持っている『感じる力』を、音と香りの探求を通して大切に育んでいく時間になればと願っています。
今回案内人としてご一緒いただくピアニストの徳力清香さんは演奏はもちろんのこと、演奏間に挟むお話も人間味豊かで、音と言葉の心地良い空間を奏でられます。今回の構想をご相談したところ快く引き受けてくださり、作曲家、選曲、キーワードの抽出なども一緒に行いました。
『香りと共に作曲家の世界を巡る』
全7回シリーズはDebussy, Ravel, Mozartと軽やかで透明感がある音質から始まります。DebussyとRavelは同時代の仏作曲家として一括りにされがちですが(実際私はそう感じていました苦笑)、感覚的であるDebussyに対して、Ravelは数学的な感性の持ち主で、フランス当地に留学されていた清香さんに、2人の似て非なる世界をご案内いただきます。Mozartはあまりにも有名で天才的ですが、彼が天才とされる所以 - 例えば素晴らしく単純な音遊び(ソとミだけで素敵な曲が出来てしまうところ)-も探っていく予定です。
Mozartのあとにはやっぱりこの作曲家しかいない。J.S.Bachが遺した偉大な作品の数々は後の音楽家達の基礎を作り、先日亡くなった坂本龍一さんもBachの研究を生涯通じて続けておられたBachの徒でした。続くは、詩や歌をこよなく愛したSchubert。短い生涯の中で、歌を歌うように(彼はウィーン少年合唱団のメンバーでもありました)詩(言葉)から数々の美しい旋律を生み出していった彼の軌跡を追います。そして、Chopin, Rachmaninovと私の大好きな作曲家で全7回シリーズを締めくくります(あるいは、深い余韻を引きずって…)。
『調香ワークショップx作曲家シリーズ』はただ今、全7回の事前申込を募集中です。お気軽にお問合せくださると大変嬉しいです。
今回も長文にお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
ご感想やご意見、ご要望などもお待ちしております。