パフューマリー通信 Vol.15

夏至を数日後に控え、明るい新月の朝。

今日のパフューマリー通信では、天然香料シスタス/ラブダナムをご紹介します。

『シスタス/ラブダナム』

シスタス(仏語シスト)、別名ロックーズと呼ばれる植物は地中海沿岸に生息する低灌木です。樹脂から採れる香りはアンバー様で、香りの強度はとても強く、品格のある豊かな香りとして大変重宝される香料です。ベースノートとして用いられ、フゼア系(ラヴェンダー・パチョウリ・トンカ)やシプレ系(ベルガモット・フローラル・オークモス)の香調にもよく調和します。

『シスタスの歴史』

シスタスの歴史は古く、キフィや練り香にも処方されてきました。春に白い五弁の花を咲かせ、白い花弁にある槐色の斑点は「キリストの涙」と呼ばれてきました。花が咲き終わり、4月~6月にかけて新芽を伸ばします。地中海沿岸の強い日差しから身を守るために新しい枝は樹脂を形成し、枝は真っ赤になりります。

昔はシスタスの枝葉を食べた山羊の毛についた樹脂を注意深く採る、、といった方法で採取していましたが、後にラダネステリオン(Ladanesterion)という皮の紐が付いた道具で枝を打ち付けてシスタスの樹脂を採り、ナイフでこそげ取るようになりました。古代エジプト王のファラオの杖はこのラダネステリオンです。

1920年代よりグラースの香料会社が南仏レステレル地方でシスタスの蒸留を始めますが、戦後主要産地はスペイン南西部・アンダルシアへと移ります。現在ではシスタスの約80%がスペイン産、その大半がアンダルシアです。

『収穫~蒸留/抽出』

シスタスの収穫は7月頃から。収穫は全て手作業で、樹脂がびっしりと付いた枝のみ刈り取っていきます。スペインでは収穫にはジプシーの共同体が参加し、早朝から日中までの厳しい農作業ですが、貴重な収入源となります。収穫は10月頃まで続きます。シスタスは品種としても強く、刈り取っても3年後には再び収穫が出来るようになります。

シスタスの枝から樹脂のみを取り出し、樹脂を蒸留したものをシスタス(シスト・オイル)、樹脂そのもの、あるいは樹脂から抽出したものをラブダナムと呼びます。

『シスタスの情熱とハンナ・アーレント』

シスタスの、ほんの少量でも強烈に放つ、灼熱の太陽のような情熱の香り。スモーキーで、少し近づき難さがあるのに人を惹きつけて止まないその香りは、私にとってハンナ・アーレントのイメージそのものでした。

今秋 BLISS が発表予定の新しい香水はハンナ・アーレントに捧げます。

勇敢な女性をテーマに創作を続ける1st Collectionの第2作目。シスタスを鍵に、彼女の情熱、知性、行動力とひるまない精神力、歴史と人間の本質を洞察する感性、世界への愛とありのままの自分。どこにも所属しない、けれども普遍的である存在。彼女が向けた情熱に香りを捧げたいと思います。

ハンナ・アーレントは現在もその研究者が絶えない、哲学・思想家として際立った存在。私も彼女のことを全然分かっていません。彼女のこと、彼女の人生、彼女の残した功績を知りたい、理解したい。そんな想いから十五夜の夜に映画上映会と講演会を開催します。

『ハンナ・アーレント その生涯と世界への愛』(仮)

日時:2023年9月29日(金) 18:30~21:30(18:00開場)

会場:金沢21世紀美術館 シアター21

内容:2013年映画「ハンナ・アーレント」の上映後、休憩、講演

入場料:1,000円(事前予約の方には香水のミニサンプルをお渡しします)

講演者/大形 綾 プロフィール

京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。現在、京都大学ヒト生物学高等研究拠点ASHBi非常勤研究員。専門は思想史。共著に『アーレント読本』(法政大学出版局、2020)、共訳にマリー・ルイーズ・クノット編『アーレント=ショーレム往復書簡』(岩波書店、2019)がある。

まだまだ先ですが、この機会にぜひ、ハンナ・アーレントの勇敢さに触れていただけたら大変幸せです。正式な告知はまだ先の予定ですが、ご興味ある方はお問合せ・ご予約ください。

本日もパフューマリー通信にお付き合いくださり、ありがとうございました。

Happy Summer Solstice!