パフューマリー通信 Vol.16 - 自然香水・オーダーメイド香水 BLISS Natural Perfumery

連日猛暑日となった三連休も山の畑に通いました。パフューマリーのある長町と犀川の上流にある畑と。7月新月のパフューマリー通信では長町と畑についてです。

『加賀八家・長家の屋敷町』

金沢には犀川・浅野川の二つの川が流れ、川という自然の要塞に守られ、二つの川の間に金沢城とその城下町が発展していきました。BLISSのパフューマリーがある長町地区は加賀藩八家老の一つ、長（ちょう）家の屋敷があった土地でした。所々に残る土塀など今も武家屋敷の面影を残し、長町武家屋敷跡は金沢の観光名所の一つです。少し歩くと犀川があり、夏には鮎が遡上します。

BLISSのパフューマリーは大正四年建造の町家を改修したものです（パフューマリー通信 Vol.1）。元々状態が良かった上に、建材にいい木材が使われていたため耐震など構造上の問題は特にありませんでしたが、改修をきっかけに耐震補強をし、築百余年の家を更にもう百年、使えるようになりました。

長町地区は街の中心部にあり、郊外型の大型スーパーやチェーン店はありませんが、図書館や病院は徒歩圏にあり、デパートや映画館などがある香林坊へは徒歩10分、香林坊からはバスで市内どこへでも行けます。最近は新しいお店やカフェも増えて、基本的に出不精の私ですが、少しずつ、気になっているお店を訪ね歩いています。

『斜めの空き家』

一方、ドーナツ化現象・高齢化・そして各家の様々な事情が相まって、中心部では空き家問題も切実です。パフューマリー斜め向かいにある立派な町家。先日ご縁あって、家主さんとアトリエの改修を手掛けてくださった建築士・あとりいえ。さんと一緒に家の内部を拝見させていただきました。元は印刷所を営まれ、増改築ののちに移転、その後もご家族が住まわれていましたが、5年前に亡くなった後は空き家となり、コロナ以前は引き合いがあったものの、ここ数年はテナント募集の看板が掛かったままでした。

謄本などは制度上残っていないそうですが、納税の記録から明治中期頃建造の町家。低い天井は当時の人々の背丈や生活様式からして標準だったのでしょう。構造は驚くほどしっかりしており、やはりいい建材が使われているが所以。戦前や戦後の物資が不足している年代に立てられた家のほうがよっぽど構造が弱いそうです。茶室、中庭、朱塗りの壁と書院造りのある和室など随所に意匠が見られ、窓を開け放つと夏の爽やかな風が入ってきました。そして、私が毎日眺めていた空き家の2階の窓からはパフューマリ－の外格子と看板が視界に入ってきました。

『美しい街並み』

私が街中にパフューマリーをつくったのは、もちろんご縁があったというのもありますが、郊外の工業団地でなく、街中に化粧品製造所をつくり、街並みに貢献したいと思ったからでした。どのようにしてよりよい未来を次世代に残していくか。ひとそれぞれの選択肢や営みがある中で、私の場合は、自然香水でした。

金沢の街並みが美しいのは城下町である意識や誇りが今も根付いているから。金沢の人はお庭や家の周りを綺麗にしていると建築士さんが話していましたが、私も長町に住まうようになってからはご近所の方々に見習って、玄関周りや周辺の掃き掃除をするようになりました。街の美しさはひとりひとりの美意識から生まれ、成り立っています。そして田園の美しさ、日本の原風景も。

『犀川上流の畑と』

アトリエの氏神様でもある犀川神社。夏の大祓祭には犀川の葦で作る茅の輪が設置されます。

こちらもご縁で、金沢に移って以来、犀川上流にある山間の集落で畑をお借りしています。長町から車で約30分。のびやかな田園風景と山々が広がり、長町での暮らしも好きですが、この景色を見るたびにほっとします。

10世帯ばかりの集落では、皆、兼業農家として主にお米を育てています。山間地で傾斜があり集約化には向きませんが、山や畔は集落で共同管理をされ、定期的に草刈など、いつも綺麗に整備されています。青々とした田んぼの美しい景色、適度に人の手が入った里山には光が入り、雨上がりの早朝はきらきらと輝き、宝石のような格別な美しさです。

10年掛かってパフューマリーをつくったので、次の10年は原料を育てたいと、今年になってから種蒔きを始めたのですが、直播きは殆ど振るわず…。セルトレーに種を蒔き、ポットで育苗し、定植するのが目下の課題です。ここ数年、集落ではイノシシや猿などによる農作物への被害が著しく、畑をやめるか、電気柵を張り巡らすか、深刻な問題になっています。ハーブ、香料植物ならどうなのだろう…？打開策になるかは全く分かりませんが、年々少しずつ増えていく集落の耕作放棄地を横目に、今後何かできたらと思いつつ、今は私達の畑の草刈りだけで汗だく・クタクタになっています。