パフューマリー通信 Vol.24

雪の朝

3月の雪の朝。山のほうに用事があって出掛けると、銀世界が広がっていました。立春が明けて春のような陽気から一転、真冬の寒さが続き、光が恋しくなります。3月に調香した香りは優しい光を求めて、パルマローザとやわらかなシトラスノートを中心に組みました。

『パルマローザ』

パルマローザはインドやネパールなどに生息するイネ科の多年草です。ゲラニオールを多く含み、ローズ様の香りがします。香料業界では安価なローズ偽和剤としてパルマローザからゲラニオールを分留して使用されることが殆どですが、天然香料の素晴らしさのひとつは多数の成分による複雑な味わい。この雑味があるからこそ、天然香料には豊かな奥行きがあります。

パルマローザには石けんのような爽やかさとグリーンな酸味があり、清らかで、お風呂上りのほっとするような親しみのある懐かしさも覚えます。包み込むような優しさがあり、フローラル系やウッディ系ノートなどとよく調和し、香水の調香でも重宝する天然香料のひとつです。

『音と香りと』

作曲と調香の関係を探求する、昨年6月から始めた『調香ワークショップ×作曲家シリーズ』も次回ラフマニノフが最終回。毎回準備のためにひとりの作曲家と向き合う時間は、それぞれの人生の軌跡に、作品に込められた溢れ出す情感に共振する体験でした。

ひとつひとつの音と間合いから奏でられる音色を調香でどこまで表現できるのか。香りを重ねていくことで少しずつ、ある時には大胆に変化する香調。音色に耳を澄ますように香りを聞く体験を届けることができたのか。試みをご一緒していただいた皆様には感謝しかありません。

さて。BLISSが今年1st Collectionシリーズとして発表予定の香水は、職業ピアニストが男性に限られていた時代、19世紀にヨーロッパ各地で活躍した女流ピアニストであり作曲家のクララ・シューマンに捧げます。作曲家ロベルト・シューマンの妻として夫を支え、ロベルト亡き後は彼が遺した作品を世に広める一方、8人の子どもを女手ひとつで育てた逞しい女性でした。クララという名は「明るく、清らか」という意味が込められていたように、誠実な香水をお届けしたいと願っています。

寒さ続きますが、春はそこまで。ある日突然、やわらかな風と匂いを伴って訪れる春の気配を全身で感じる、1年に1度だけ訪れる日を待ちわびて。

皆様が優しい光と風とに包まれますように。