4月牡牛座新月。山の雪解けもすすみ、新緑がまぶしい季節となりました。冬越しした小さなアトリエの庭のミントやオレガノ、ヒソップも新芽を伸ばし、毎日少しずつ摘んではハーブウォーターにするのが細やかな日課になっています。
春になって新しい出会いにも恵まれて、天然香料とは何か、抽出方法などについてご質問をいただく機会も増えました。今回のパフューマリー通信は天然香料の基本について。
天然香料とは
天然香料とは自然界に存在する動物・植物・鉱物などから様々な方法で抽出された香料です。BLISSでは植物由来の天然香料を使用して香水を制作していますので、今回は植物性の天然香料についてご紹介します。
植物由来の天然香料は主に柑橘類、花やハーブ、樹木から抽出され、抽出部位(果実・花・葉・幹・根・種・樹脂など)はそれぞれ異なります。
抽出部位の例
果皮・・・レモン・オレンジ・ベルガモット
花・・・・ローズ・ジャスミン・ネロリ
葉・・・・ローズマリー・バジル・ユーカリ
木部・・・・ヒノキ・サンダルウッド
根・・・・ヴェチヴァ―・ジンジャー・イリス
種・・・・コリアンダーシード・キャロットシード・カルダモン
樹脂・・・フランキンセンス・ミルラ・ベンゾイン
また同じ植物でも部位によって異なる香りが抽出されます。代表格はオレンジ。オレンジは果皮から得られる香料だけでなく、花からはネロリ(オレンジフラワー)、枝葉からはプチグレンが得られます。
天然香料の抽出方法
植物や部位によって、適切な抽出方法があります。ここでは代表的な抽出方法として水蒸気蒸留法・冷却圧搾法・溶剤抽出法についてご紹介します。
アロマセラピーでも使用される精油(エッセンシャルオイル)とは水蒸気蒸留法と圧搾法によって得られる天然香料。溶剤抽出法を用いて抽出される香料はアブソリュートと呼びます。
水蒸気蒸留法
10世紀に確立された蒸留技術で、植物に水蒸気を送り込み、あるいは植物と水を一緒に沸騰させ、芳香成分を得る方法です。水蒸気と共に揮発した芳香成分を急速に冷却すると、蒸留水とエッセンシャルオイルが分離して得られます。
ローズやカモミールなど収穫後速やかに蒸留したほうがよいものもあれば、ラヴェンダーのように2-3日陰干ししたほうがよいもの、ペパーミントなどしばらく乾燥させたり、パチョリのように半発酵させてから蒸留するものがあります。
圧搾法
柑橘類の芳香成分は多くが果皮に含まれ、果皮を圧搾して香料を得ます。圧搾法には様々な種類があり、果皮を剣山のような針で傷つけたり、果実を半分に切り果汁を絞った後に圧搾する方法、パルメザンチーズのように果皮をすりおろして精油を得る方法などがあります。
溶剤抽出法
有機溶剤やエタノールなどに植物を浸して溶剤に芳香成分を移した後、溶剤を除去して香料を得る方法です。水蒸気蒸留では熱によって芳香成分が壊れてしまう香料を得るのに適しており、ジャスミンやオークモスなど香水に欠かせない香料は溶剤抽出法により得られます。またローズのアブソリュートには水蒸気蒸留では得られないローズの芳香成分も含まれ、ローズのエッセンシャルオイルとは違い、ねっとりとした蜜のような甘さがあります。ラヴェンダーのアブソリュートはトルコ石のような水色で、ラヴェンダーの花の色が鮮やかに残ります。
今回は基本的な事柄に留めましたが、香りの歴史や植物の生理機能、栽培法による香りの違い、抽出の技術など、豊かで奥深い世界が広がっています。私もまだまだ勉強中ですが、学びを皆様と共有できればと思ってます。
連休も始まりました。
新しいはじまりと共に、休息も大切になさってくださいね。
BLISS 茂谷あすか
Profile
1982年生まれ。2006年英University of East Anglia卒業。株式会社QUICK、三井物産株式会社勤務を経て、2015年より調香の仕事を始める。2019年東京理科大学卒業。2021年石川県金沢市にてパフューマリーを設立。自然香水の製作を行う。