今回のパフューマリー通信は少し趣向を変えて、薬機法から見た「香水ができるまで」。今回の内容は、特に私と同じように「香水をつくりたい」と同じ想いを持つ方に向けて用意しました。マニアックな内容ですので、ご注意ください!
『薬機法とは』
薬機法とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称で、化粧品の製造・販売・安全管理を規制し、保健衛生の向上を図る法律です。
BLSSは化粧品業界の新参者です。法律は堅苦しくて難しく感じられますが、背景を含め丁寧に読み解いていくと、化粧品事業者としての役割と責任が明確に見えてきます。昨今インターネット上の情報が溢れる中、正確さに欠ける情報も数多くあります。そのため、法規制では示されない具体的な実務に関することは、専門書籍を購入したり、同業者の方に意見を求めてきました。今も手探りではありますが、薬機法と実務を照らし合わした、香水(化粧品)ができるまでをご紹介します。
『化粧品とは』
化粧品とは「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用される」物として定義されています。
化粧品は医薬品・医薬部外品に準じますが、人体に対する作用が緩和であり、効能は定められた範囲であることから、化粧品に対する法規制は配慮されたものになっています。実際の化粧品製造・製造販売の現場では、日本化粧品工業連合会の自主基準を遵守することが推奨されています。
『香水の処方開発』
薬機法では配合成分は化粧品基準(ネガティブ成分・ポジティブ成分)に適合するものとあります。基準に違反しない成分については、企業責任のもとに安全性・品質を確認し、配合を決定します。使用実績のある原料のみを使用する製品については、全成分表示により、個別の品目の承認を経ることなく、化粧品製造販売届を提出することで製造販売が認められます。
※香料の場合は香り付けとして使用する場合の成分名は「香料」と記載可。
薬機法では化粧品における香料使用の規制はありませんが、EU化粧品規則では潜在的なアレルゲン物質として香料中の26成分を特定しています。実際の処方決定には、IFRA(国際香粧品香料協会)が毎年発表するIFRA Standard(香料を安全に使用するためのスタンダード)も参照しています。
試作製作後には温度安定性試験を実施し、pH、外観性状や臭いの変化などを観察して、品質を確認します。また、化粧品化粧品の未開封時の使用期限を決定するために行う試験として、安定性試験などがあります(長期保存試験、過酷試験、加速試験、サイクルテストなど)。
『香水の製造』
香水の主な製造工程は、「秤量」「混合」「濾過」「サンプリング(試験)」「充填」。また、薬機法においては、製造とは一般的な実際の製品の製造のみならず、製品の包装・表示・保管などの工程も製造行為です。
日本化粧品工業連合会は業界の自主基準としてISO化粧品GMPガイドライン(ISO22716)を採用しています。GMPとはGood Manufacturing Practiceの略称で、製造管理と品質管理の基準を意味します。化粧品GMPでは製造行為や製品だけでなく、原材料、試験、設備、作業者、廃棄物、文書などの取扱や実施方法も定めています。BLISSでも化粧品GMPに倣って、指示書や記録書、チェックリストなどの文書を用いて、実際には一人体制であっても二重・三重のチェック機能を持たせるようにしてパフューマリーを運営しています。
『香水の製造販売』
薬機法では製造業者は化粧品を製造できても、市場には出荷・上市することができません。そのため、製造業者が製造した化粧品を出荷・上市するためには、製造販売業の許可が必要になります。製造販売業者は市場に出荷する製品の品質や有効性、安全性などの最終的な責任を負います。これは、製品の市場への責任を明確化し、市販後の安全対策の充実・強化、国際整合性の確保のために、2005年の改正薬事法により設立された許可体系です。
※化粧品を「販売」するための販売業の許可は必要ありません。
化粧品は日常的に用いられる生活財(消費財)で、食品と同じように安全であることを前提に、長期にわたって用いられます。万が一の健康を損ねる事故防止のために、品質管理基準を満たした製品を出荷することは勿論のこと、製造販売後も安全管理情報の収集に努め、必要があれば回収を含む安全確保措置の実施を行います。最後のひとしずくまで愛していただくために、安心してお使いいただくために、品質を追い求めていきます。
*
今回の通信は私なりに薬機法を嚙み砕いて香水が出来るまでをお伝えしたつもりですが、堅苦しい内容になってしまいましたこと、お詫び申し上げます。少しでも参考になりましたら大変幸いです。ご不明点などあればお気軽にご連絡ください。日本でももっと自由に香水をつくれたらと切に願っています。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ご意見・ご感想など、是非お聞かせくださると嬉しいです。
次回通信は9月10日にお披露目予定のBLISSの1st Collectionの初めての香水「パルファン 1001 Nights」と千夜一夜物語について。シェヘラザードの魅力、そしてアラブの世界でどのように香りが用いられてきたかについてもお伝えいたします。