8月新月のパフューマリー通信。厳しい残暑が続きますが、秋の虫の音が聞こえ、朝夕は少し暑さが和らいできました。とは言え、今週末の金沢は最高気温35℃の予報。どうか皆さまご無理なさいませんように。また、先日の大雨では金沢市内でも至るところで浸水被害があったと聞いています。心よりお見舞い申し上げます。
今日のパフューマリー通信はひと休みして夏休み仕様に。旅の備忘録ですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
8月上旬、キャンプ道具一式を積んだ車を走らせ、新潟でフェリーへと乗り継ぎ、数カ月前に地域おこし協力隊として北海道・斜里町に引っ越した友人を訪ねました。知床半島の北側を占め、オホーツク海に面する斜里町に到着したのは金沢を出発してから4日目の夕方でした。
2週間前に小麦の収穫を終えた大地は金色の刈り跡が残り、ニンジンの収穫の真っ最中。ジャガイモやビーツ畑がひしめき合うように敷き詰められた広大な農地が広がる風景はヨーロッパの田園を連想させ、まるで日本ではないようでした。斜里岳のなだらかな裾野が広がる平野はかつては森や林が広がっていたことが連想させられ、開拓の規模を肌で感じると共に、アイヌの地に和人が入植した史実に複雑な思いが掻き立てられました。
『都市が崩れ、廃墟となったとき、地名だけが残ることを地名自身が知っている』(2005 鈴木博之)。異国のような地名を通りすがり、さほど昔ではない時代にアイヌが営んできた暮らしの知恵や自然との共生の証が今は地名として残っていることが印象的でした。
知床はアイヌ語「シリエトク」に由来し、「地の果て」や「突き出たところ」を意味します。斜里町の中心部は知床半島の付け根部分に位置し、遠浅の海岸の右手には青々とした山々が海へと伸びていくように連なり、内灘の海から能登半島を仰ぐ景色と重なるようでした。夏の日本海のように8月のオホーツク海は穏やかに凪ぎ、随分と遠くまで来たはずなのに、どこか懐かしい原風景に居合わせたような不思議な気分に。
知床半島は開拓の影響を免れた日本に残る最後の原生地。世界遺産に登録された2005年以降は海外からも観光客が押し寄せ、ハイシーズンの国立公園内のビジターセンター(知床自然センター)や知床五湖は観光客でいっぱいでした。知床半島は世界有数のヒグマの生息地。私たちが知床半島を発った数日後に羅臼岳でヒグマによる登山者の事故死を知り、『#ニンゲンもクマも距離感が大切』というメッセージが示す自然界と人間の均衡について考え続けています。BLISSが志す「自然とひとの美しい調和」という言葉が脆く儚いものであることを心に書き留め、決して概念だけではなく、いかに実践するかは永遠に終わらない課題なのだと胸に刻みながら。


旅の終わり、フェリーに乗船する前に二風谷アイヌ文化博物館を訪ねました。アイヌ研究者でアイヌ初の国会議員にもなられた故・萱野茂さんが半世紀に渡り収集・復元製作されたものを基礎とした豊富なコレクションと展示があり、博物館周辺はコタン(アイヌの村落)や工芸館、資料館などもあり、とても短時間では回れず、必ずまた来ようと泣く泣く後にしました。豊かな大自然と共生し、人間としての誇りを尊んできたアイヌの知恵と精神に魅了されています。
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新月の今日、長年パリで調香師として活躍されている新間美也さんの新著「香水を深める100の言葉」が届きました。新しい本との出会いはいつもわくわくしますが、今回は殊更に楽しみです。
BLISS 茂谷あすか